令和6年度 助成事業採択団体へのインタビュー。活動に対する想いをお聞きしました。(NPO法人えんまる)
こんにちは、サンクゼール財団です。
サンクゼール財団は、「すべての人に、愛と喜びのある食卓を。すべての人に、温かい光を。」という理念の実現に向けて、財団設立後初となる助成事業を実施いたしました。
「愛と喜びのある食卓づくり支援」と題した本助成事業は、長野県内の子ども食堂等や中間支援団体を対象とした取り組みです。
県内各地からご応募いただき、地域の食支援活動の広がりと、それぞれの熱意を改めて感じることができました。 その中でも今回は、助成が決定した団体のひとつである「NPO法人えんまる」様(以下、えんまる)を訪問。代表の岩間淳さん・岩間千佳さんご夫妻に、活動の背景や現場の声を伺いました。
NPO法人えんまる 概要

【主な活動地域】長野県長野市
【事業内容】「困っている親御さんと子どもを支援し、地域社会に貢献する」ことを目的に、NPO法人えんまるを設立。2018年には長野県で初めて訪問型病児保育事業を開始。
新型コロナウイルスの影響により、困窮や孤立の中でSOSを出しづらくなっているひとり親世帯の存在に危機感を抱き、2020年8月より「こども宅食えんまる便」を開始。食料配送をきっかけとしたアウトリーチ支援に取り組む。現在は55世帯・170人に対し、毎月食料を届けている。
【ウェブサイト】https://enmaru.net
【Instagram】https://www.instagram.com/npoenmaru_takushoku/

【代表者プロフィール】
岩間淳さん(全体責任者):
団体全体の流れを見ながら、必要な調整やサポートを行う。資料作成や情報発信、食材の確保、事務作業等、活動を支える土台作りに取り組む。

岩間千佳さん(現場責任者):
ひとり親家庭への常時対応、学生や若者への個別支援を担当。日々現場に寄り添いながら、多くの方々との信頼関係を築いている。
頼る人がいないひとり親世帯の存在
宅食をきっかけに、孤立・孤独を防ぎたい
ーーこの度は当財団の助成事業にご応募いただき、誠にありがとうございました。
「こども宅食えんまる便」に活用いただく資金として、助成が決定しています。えんまる便の活動は、必要とする家庭に食料をお届けする「宅食」事業ですが、各支援家庭とLINEでつながる等、深い関係性を築いた上で活動されている点が印象的でした。この宅食事業を開始した経緯について、詳しく教えてください。
岩間淳さん:元々は、訪問型の病児保育事業を行っていました。元々妻が保育士だったこともあり、「子どもが熱を出して、親が仕事を休まなければならない」といった状況を少しでもフォローできればと思って始めたんです。
その活動を続ける中で、ただでさえ子どもの看病は大変なのに、母子家庭など保護者が一人で頑張っている家庭は、もっと大変だと感じるようになりました。
仕事を頻繁に休まざるを得ない状況で、職場の理解を得られず、「もう来なくていいよ」と言われてしまうこともある。そういう家庭こそ、本当に支援が必要だと感じながら活動していました。
ただ、病児保育の仕組み上、利用者さんから保育料をいただく形になっていて、1時間あたり1,500円の料金がかかるんです。
その金額を払えないという声も多く聞いていて、本当に必要としている人に支援が届かないという葛藤がありました。
そんな中でコロナ禍になり、頼れる人がいないお母さんたちが、ますます一人で頑張らざるを得ない状況になりました。
実家にも頼れず、子ども食堂のような居場所にも行けない。そうした方々のために、今までできなかったことを始めようと決心しました。
「まずは食材を届けることで、孤立を防ごう」という思いから、2020年8月に“こども宅食えんまる便”の活動をスタートしました。
最初は2世帯5名という小さな規模で、気軽な感じで始めました。たまたま私の叔母が農家だったり、知り合いにも農家の方がいたので、そうした方々から寄付をいただければ、なんとかなるんじゃないかという気持ちで始めたんです。
そこから少しずつ活動を広げていって、現在は55世帯、170人を支援しています。
妻の経験から、保育士のつながりも多く、「支援を待っている家庭がある」といった情報も入ってきました。なかなか自分から助けを求められない、誰にも頼れないお母さんたちがいるということも、そうした情報から知ることができました。
――えんまる便を利用し始めるきっかけは、保育士さんからの情報以外ではどのようなものがありますか?
岩間淳さん:活動当初から現在も、ホームページやSNSで情報発信し、そこから申し込みをいただいています。
また、利用者が増えてきたことと、活動が4年目、5年目と続いてきた中で、専門機関とも連携できるようになってきました。そうした機関から「この家庭、ちょっと困っていそうなので、食支援で様子を見てもらえませんか?」といった紹介を受けることも増えてきています。
岩間千佳さん:あとは、困っているお母さん同士や同じ境遇のお母さん同士はネットワークを持っていることがあります。
そうしたつながりの中で、えんまる便を紹介してもらって、そこから繋がるケースもいくつかあります。 私たちは、情報共有をとても大切にしています。
「ここに行けば話を聞いてもらえる」「ここでは食材がもらえる」「こういう支援の仕組みがある」といった情報を発信し、必要な方に少しでも届けばと思っています。
――今回の助成事業は様々な団体さんからご応募をいただきました。それぞれ本当に素晴らしい活動に取り組む一方で、運営には様々な苦労やお悩みがあるのだと感じています。えんまる便の活動において、どのような課題がありますか?
岩間淳さん:課題としては、まずは資金面という点があります。そしてもう一つの大きな課題が「人」、つまり人材です。
私たちの活動では、食材を届けて玄関先に置いて終わり、というわけではありません。
むしろ、そこが支援のスタートになります。そこからお母さんや子どもとの関わりが始まり、対応していくことが活動の中心です。
信頼関係を築くには時間がかかります。毎月訪問して、少しずつお話ができる関係性を作っていくのですが、長い人は1年ほどかかることもあります。
何度も訪問して、「実はこんなことで困っているんです」と本音を話してくださる関係を作る。
とにかく丁寧に、時間をかけてやっていかなければならないので、誰にでもできることではありません。
スタッフは素晴らしい人たちばかりですが、たった一度でも失礼な対応をしてしまったり、嫌なことを言ってしまうと、信頼が崩れてしまいます。
踏み込みすぎてもいけません。人との距離感や対応の仕方はとても繊細で技術のいる事ですが、活動にはそうした人材がどうしても必要です。
今のスタッフも一生懸命頑張ってくれていますが、支援を受ける方の中には、社会的な関係づくりがうまくいっていない方も多く、対応が難しいケースもあります。
食材を届ける際、時間を決めているのに遅れてしまい、「なんで来ないんだ」と怒られたり、階段のある住宅で高齢のスタッフが重い荷物を運べず、「ちょっと手伝ってもらえませんか」と言った際に、「なんで行かなきゃいけないんだ」と言われてしまうといったケースもありました。
大変ですが、そういうご家庭だからこそ、支援が必要なんですよね。
スタッフの教育や、メンタルケアといったサポートも、活動を続ける上での大きな課題です。
サンクゼール財団の助成金を通して、「見守っている人がいる」という思いを届けたい
――当財団の助成事業に応募しようとしたきっかけや想いについて教えてください。
岩間淳さん: 強く印象に残っている、ある出来事がひとつのきっかけです。
この活動を始めた頃に、長野県のとある大手食品企業さんから食品の支援をいただきました。それらをお配りしていた時にある家庭のお母さんが、こう言って下さったんです。
「地元の大きな会社が、私たちのことを見守ってくれているなんて思ってもみませんでした。私たちは世間から見捨てられていると思っていたのに。気にかけていただいて本当にありがたいです。」
その言葉が心に残っていて、以来ずっと「見守っている」という感覚を届けることを大切にしてきました。えんまる便の活動は、行政や企業だけでなく、個人やお寺さんなど、さまざまな人たちから支援を受けています。そういった方々の温かい気持ちと、「見守っていますよ、支えていきますよ」と伝えることが、私たちの役割だと思っています。
ですので、今回の助成金も単なる「食料の支援」ではなく、「サンクゼール財団からの支援」だと伝わるような形で活用したいと考えています。
――サンクゼール財団の助成金を活用いただくことで、少しでも「愛と喜びのある食卓」が広がることを祈っています。より良い社会の実現を共に目指すパートナーとして、活動に対する今後の展望や想いをお聞かせください。
岩間淳さん:「思いを伝える」という取り組みも、私たちが大切にしている活動のひとつです。
支援を受けている方々は、社会的に孤立していることが多く、発信の機会も限られています。
だからこそ、ホームページやSNSなどを通じて、サンクゼール財団から助成を受けていることや、私たちの活動の様子を発信することで、「こんな取り組みがあるんだ」と知ってもらうことが大切だと考えています。
それをきっかけに、「もしかして自分も支援を受けられるかもしれない」「自分も何か関わってみたい」と思ってもらえるような、そんな広がりをつくっていけたらと思っています。
岩間千佳さん:お母さんたちにとって、食材がもらえなくなること以上に、「人とのつながりがなくなること」が一番つらいことなんです。
つながりが途切れることで、生きる力を失ってしまう。だからこそ、個人の方々はもちろん、サンクゼール財団さんのような存在が、「お母さんや子どもたちのために思いを寄せてくれている」ということを、私たちが中間に立ってしっかり伝えていくことが、とても大切だと思っています。「つなぐ」「思いを届ける」——それが、私たちの役割だと感じています。
おわりに
こども宅食えんまる便の活動は、「食」の支援をきっかけに、困難を抱える方々一人ひとりに寄り添う取り組みです。
直接的な関係性を築きながら活動されているからこそ、支援の現場には理想だけでは語れない現実があることを、私たちも強く感じました。
今回の助成事業を通じてご縁をいただいたことをきっかけに、私たちサンクゼール財団は、現場の様子を学びながら、少しでも力になれるような助成のあり方を模索していきたいと考えています。サンクゼール財団の助成を通じて、一人でも多くの方に、愛と喜びのある食卓が届けられるよう、これからも活動してまいります。
▼NPO法人えんまる ウェブサイト
https://enmaru.net
▼NPO法人えんまる Instagram
https://www.instagram.com/npoenmaru_takushoku/